地域文化の旅人(まなびびと)

旅先の地域文化の魅力を発見する

新たな「お遍路」旅の芽生えに出会う

 宮城県岩沼市にある千年の丘希望交流センターを訪問した際、「交流センター」がある相野釜公園内の1~3号の希望の丘を巡る散策をしました。1号丘では、現在の海岸線の眺望を楽しむことができました。そして、2号丘では、仙台空港を発着する飛行機と飛行場の風景を観察することができました。この公園内では、一番南側に建設されている3号丘では、この付近の海岸線および「玉浦希望ライン」と命名されたかさ上げ道路周辺の復興の様子を360度見渡せたのです。三つの丘を結ぶ散策路も整備され、植樹さ れた樹木の中を通りながら適度な運動のためのウォーキングを楽しむことができました。野鳥のさえずりの声も聞こえてきました。

                 

 その散策の中で、「東北お遍路巡礼地」と刻まれた石柱に出会ったのです。この石柱に興味を持ち、自宅に戻ったあと、どのような経緯で建設されたのかインターネットで調べてみました。そして、現在、大震災で大きな被害を被った東北の沿岸地域で新たなお遍路の旅文化を創造しようとするプロジェクトがあることを知りました。そのプロジェクトを主唱しているのが、(―社)東北お遍路プロジェクトです。

 そのホームページによると、大震災の年の2011年9月、青森・岩手・宮城・福島県の有志により「震災巡礼東北を考える会」が結成され、次の年、2012年12月に、(―社)東北お遍路プロジェクトが設立されたとのことでした。その設立目的は、大震災で甚大な被害を被った諸地域が、「千年後までも経済的・文化的に自立発展できる復興の一助となるような」諸活動を実施して行くというものです。その活動の柱として、お遍路巡礼地を選定し、選定された地にその「標柱」を建設することだったのです。私が岩沼市の千年希望が丘交流センターを訪問して出会った写真にある標柱はその中のひとつだったのですね。

 日本におけるお遍路は、単に信仰上の修行旅というだけでなく、一般的な観光をも目的とするかなり幅広い目的で全国にある霊場を巡る旅なのではないかと思います。その中には、自分の人生の中でさまざまな大きな問題を抱えるようになってしまった人や大きな挫折を経験しもう一度生まれ変わりたいと自分を見つめ直し、自分に向き合い、そして自分の再生を図るために霊場を巡る旅という形のお遍路旅もあるのではないかと思います。

 今回出会った新たなお遍路プロジェクトは、さらに2011年の東日本大震災によって被害を受けた人たちや地域への慰霊と鎮魂、そしてその記憶や教訓を千年先にまでも伝承するという意義が加わったものとなっているのです。そのこと自身、ひとつの大切な千年先の世界を見通した地域づくりであると言えるのではないでしょうか。

 個人的な期待かもしれませんが、そうした意義を持っている今回出会った東北お遍路巡礼の旅は、かつてのお遍路旅がそうであったように、徒歩による旅という文化も再生されて行くことにつながって行けば素晴らしいなと考えています。

 文明的な交通手段が宇宙を目指すまでに発達を遂げている現在でもなお、歩くことによる旅は、世界中で見直されつつあるのではないかと思います。ある定められた、そしてかなりの距離のコースを、ひたすら歩き通すことだけを目的とする旅の形は、むしろ現代文明が発達すればするほど、その反動として、自己を見つめ、自己と向き合い、そして自分の再生を果たしていくための一つの道として、魅力に満ちたものとなってきているのではないかと感じます。

 幸いなことに、現在、上記の東北お遍路巡礼の旅のプロジェクトと重なる形で、「みちのく潮風トレイル」という旅のプロジェクトが展開されています。今回訪問した千年希望の丘交流センターに、「宮城オルレフェア2024」のチラシが置いてありました。そして、そのチラシには、その「みちのく潮風トレイル」の旅への招待が、次のように綴られています。すなわち、

 「みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市蕪島から福島県相馬市松川浦まで4県29市町村の海岸線を中心に設定された「歩いて旅をするための道」です。全長1,000キロを超えるこのトレイルの特徴は、東北太平洋沿岸ならではのダイナミックな海、川、里、森と連続する美しい景観です。自然と共にある人々の暮らし、積み重ねられた歴史・文化は、厳しくも豊かな自然の恵みと重なり合いながらいまに繋がっています。歩く中で生まれる人と人との温かな交流もこの道の大きな魅力の一つです。ぜひ東北の歩く旅へ」というようにです。

 「歩く中で生まれる人と人との温かい交流」という言葉に魅力を感じます。東日本大震災で被害に遭われた人たちや諸地域への鎮魂と慰霊、そして再生と旅する人自身の自己探求と自己再生を、時間をかけ、訪れた先々での交流を通して願い、祈りを共有化する旅文化の発展を望みたいと思います。

 

                            地域文化の旅人(ひ)